読んだ小説の感想文でございます。あなたが読んだ小説はありますか?

「ためらい」ジャン=フィリップ・トゥーサン
 私が買ったのは集英社文庫のものですが、表紙に小さく描かれたカフェオレカップらしきカップとポットのシンプルな絵が気に入って買った小説です。杉田比呂美さんのイラストだそうですが、こうゆう絵好きだなぁ。
 小説の主人公は自意識過剰で被害妄想の激しい人のようで、友人をストーカーのように思い込んだあげくに不法侵入したり、そうかと思うと今度は友人はもう死んでるんじゃないかと思い込んだりして、読んでるこっちは大丈夫なのかこの人は‥と思いながら読んでました。結局ラストは全て主人公の被害妄想みたいな終わり方だったけど、主人公の妄想通りに夜、船がサスエロ島へと向かって行きましたね。あれにはビアッジの死体があるんでしょうかね‥。
 あとがきにはこの小説の評価が好評と不評に二分した事や、トゥーサンという小説家について書いてあったけれど、この人はミニマリズムの作家であって、それでいて筋立てを決めずに先も分からないまま書いていくタイプの作家だそうです。先も分からずって行き当たりばったりなんですかねー。それともあるモチーフから作品を作っていくという事なんでしょうか。そうだとしたら、この場合のモチーフは猫の死体ですね。それからこの小説は何も扱っていない小説だ、と書いてありましたが、何も扱ってない小説もあるんですね。
 淡々とした小説ですけど、どことなくユーモラスで、途中からはミステリー風でもあっておもしろかったです。この小説を書いているときに男の子が生まれたそうで、そのせいか小説に登場する赤ちゃんの可愛らしい姿が見えるような気がするほどリアルに愛らしく書かれてます。とっても可愛いですよ。またサスエロの村や、港、海の様子もリアルに書かれています。読んでいてこの架空のサスエロの村に滞在しているような気分になりました。

「午後の恐竜」星 新一
 星さんが亡くなった時に新聞に書かれた、星さんについての記事を読んでいて、この人のショート・ショートを読んでみたいと思ってたんですが、ちょうど古本屋さんでこの本がありました。どことなく可愛い感じのタイトルとヒサクニヒコさんのカバーイラストも気に入ったので買ってきました。
 ショート・ショート読むのははじめてだったんですが、星さんはその代表的な作家ということで、どんなかな?と読んでみたんですが、これがおもしろいんですよ。作品によっては、読んでいてしばらくして未来の世界の話なんだなとか、夢の中の話だなと分かったり、現実的な話がいきなりファンタジーやらホラーになったりと意外性があって、話にぐんぐん引き込まれていくんですよね。ショート・ショートですから1作ずつ短い話が書いてあるんですけれど、短くてもなんだか大作を読んだようなスケールがあるのがすごいなぁと思いました。でも星さんの作品の魅力はやはり問題性があるとこですよね。文明や社会、人間や現代の心の病など様々な問題をシニカルとユーモアで表現してます。中でも表題作の「午後の恐竜」は可愛いなと思ったタイトルとは違って核兵器の恐怖と、最後を悟った地球の壮大なパノラマ視現象の悲しさが心に残りました。そしてもう1つ星さんの魅力、それは作品全体にあたたかさ、優しさがあるとこだと思います。色々問題を取り上げつつ、でも世界に、人に優しい人だったんじゃないかな、と思いました。

「青い麦」コレット
 星さんと同じでコレットに興味持ったのもある雑誌のエッセイがきっかけです。彼女はフランスではとても人気があり、また評価も高かったそうです。せっかくエッセイでコレットという作家を知ったので読んでみようと買ってきたのがこの小説です。
 ストーリーは純真でまっすぐな性格のヴァンカと、将来や恋愛に悩みや不安を抱えるフィル、そこに現れたマダム・ダルレーとの三角関係なんですが、これだけだと普通の恋愛物なんだけれど、コレットは独特の書き方するので全体的には個性的な印象でした。表現が抽象的だったり、普通なら区切るところを区切らずに書いたりと、いう感じです。キャラクターの言動もおいおい、と言いたくなるとこ多いです、特にフィル。やりたいだけやっておいて、その結果心が不安定になって気を失ったり、泣き出したりとしょーもないヘタレぶりです。
 この小説で気に入ったのは、読んでいる間、私もヴァンカとフィルが夏の間を過ごすブルターニュの海岸の近くの別荘にいる気分になれるとこですかね。実際にコレットはこの作品を夏にブルターニュの海岸の近くの別荘で書いたそうで、それだけに描写が丹念で詳細なので、読んでいるとブルターニュの海や、爽やかな風、花が咲く浜辺が感じられるようでした。

「異邦人」カミュ
 異邦人というタイトルと、買った本の表紙の外国の街並みの絵から、勝手にきっと国の違う男女の切ないラブストーリーなのねっと思って買ったんですが、実際は虚無的で冷めた性格の主人公の、どこまでも自分を通そうとした結果の悲劇、みたいな内容の作品でした。
 異邦人っていうのは外国人て意味じゃなくて、他と違う人という意味でした。キリストの臨終の言葉が出てくることから作者は主人公の死刑は無実の死だ、と言いたいようです。他とは違う変わった人=異常な人だと思われたから死刑になった、という事なのかな。でも殺人は犯してるんだし無実じゃないような。だいたい主人公は嘘をついたり、芝居をしないで素直にありのままに生きてるって事みたいですけれど、母親が死んでもクールだったり、裁判で反省してるように見えないとか、やっぱり人間的問題があるんじゃないの…、と常識的に考えていまいますが、そういう人が多いからこそこの主人公が印象的なんでしょうね。この主人公とは違いますが、メディアが理解出来ないとか、人間じゃないと切り捨てている犯罪者に、イジメや差別の被害者だった過去がある時、責めるべき相手は他にもいるんじゃないのかと思いますが、そんな時にこの小説の事が頭に浮かびます
 しかし時代なのか、お国柄なのか、死刑が広場で斬首刑なんてショッキングですね。読んだ後は色々考えさせられるし、けっこうズッシリ重い気分になる作品です。


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